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003 ・・・ 自動車用発動機、その1


第3回目は、ヂャイアント及びコニーのエンジンについて、当社の古い社内報から抜粋して紹介します。



仲間同士の自動車談義は、楽しいですよね。
インターネット上でも色々と語られているようですが、ヂャイアント及びコニーについては情報が少ない為か、あまり盛り上がらないようです。そこで、ドドーンと情報を提供しましょう。
お題はエンジンについて。出典は1965年に書かれた古い社内報の記事から。
これは当時技術員だった方がまとめたもので、技術的な見所や各エンジンの系譜がよく分かります。


 自動車用エンジン

最近パンケル・エンジンを主流とするロータリーエンジンが自動車業界を賑わし、またクライスラーのガスタービン乗用車が日本にまでPRの旅をのばすなど、従来のピストン式自動車用エンジンに対する有力なライバルとして、それぞれ話題を投げ掛けています。一方従来のピストンエンジンは、ベンツやダイムラーがこれを車に乗せて走らせた1886年(明治19年)以来今日までの80年間、根本的な理論はそのままで改良に改良を重ねて今日まできています。恐らくその生産性と経済性の故に、当分は自動車用エンジンとしての地位を維持していくものと思われます。
ところでヂャイアントが当社で新発足しました時のエンジンは、当時の3輪車界が空冷、側弁式の風潮の中にあって水冷式を採用し、頭上弁式半球形燃焼室を具え、高圧縮比、ドライサンプといった当時では高度の機構を持っていました。これに加えて水平対向形式の気筒配列を採用し3輪車界のみならず、一般自動車業界でも先端を切っていました。ここに順次それ等の項目を説明するとともに、開発し生産していったエンジンの数々を系統的にお話します。

■ 自動車用エンジンの特長
水 冷 式

昭和22年、ヂャイアント新発足当時は、当社以外の3輪車の殆んどが空冷でありましたが、昭和31年から34年にかけて水冷化してしまいました。水冷式は、連結部や部品等が多くまた、水の補給や水による腐食等、空冷に比較して不利であり、その故障も多い事になりますが、反面、冷却の完全さ、騒音、立馬力等性能的に有利といえるわけです。しかし当社もコニーとなってから空冷となったのですが、空冷にしろ水冷にしろユーザーが納得し満足してもらう商品であることが大切でしょう。


頭上弁式(OHV)
図9で判りますように側弁式に比較して、頭上弁(オーパー・ヘッド・バルプ)の空気の通路はスムーズで、吸入効率、充填効率等が良好です。
他社の3輪車でも29年から頭上弁化が姶まり、31年に殆んどがこれになってしまい4輪車も同様に頭上弁化されていきました。
半球形燃焼室

燃焼室を半球形にしますと、吸気弁、排気弁の径を大きくとれて吸入される空気量が大となるとともに排気効率が良好となります。また半球形ですと容積の割に気筒壁面積が最少となり、熱効率が高く高性能エンジンとして必須条件となります。(図9参照) 
詳細は後述しますが図10は水冷AE34エンジン、図11は空冷AE58エンジソの構造図で、パルブを大きくとれる事が良く判ります。エンジンは発足当初からコニーを経て現在まですぺて頭上弁式平球形燃焼室の形式をとっています。現在自動車用エンジンにはこの平球形燃焼室の他、楔型(ウエッジ・タイプ)、小判型(パスタブ・タイプ)などがあります。



高圧縮比

圧縮比が高くなると出力が向上するわけですが、そのためには水冷、頭上弁式半球形燃焼室が必要で、他の空冷側弁式の圧縮比が4~4.5位の当時に、ヂャイアントは5.5の値をとっていました。しかし技術の進歩で現在では殆んどの車が頭上弁式となり、圧縮比も国産車で最高10となり、最低でも約7となっています。



ドライサンプ

一般に自動車用エンジンで各部を潤滑したオイルが最後にエンジンクランクケース下のオイルパンにたまり、再びオイルポンプで各部に、吐送される所謂オイルバン形式ですが、最初のヂャイアントのエンジンAE4型はクランクケースにたまったオイルを排油ポンプで別のオイルタンクに汲みだすドライサンプ式でした。これですとオイルの冷却もよく、エンジンもオイルパンが不要となって、それだけ低くなるわけです。もっとも次のエンジンからオイルパン式となりましたが、コニーとなってからAE58エンジンが再びドライサンプ式となりました。

次に、昭和29年の自動車技術会賞受賞の対象となった緩衝タペット、ゼロラッシュ・アイドルギヤについて説明しましょう。


緩衝タペット
一般に動弁機構、即ち吸排気弁を開閉する機構中にはバルブ間隙があり、これが騒音の原因となっています。これを油圧でゼロにするハイドロリックタペットもありますが、複雑となります。この緩衡タペットは図12に見られるようにタペット・ロッドを2分割し、その間に緩衡スプリングと当り面の合成樹脂片とを入れ、スプリングで間隙をなくし、ロッドでパルプを突き上げる時に合成樹脂部で当てて、騒音を少なくしたもので、AE5型水平対向エンジンから採用されました。ただし、最近の空冷エンジンになってからは使用されていません。

ゼロラッシュ・アイドルギヤ
クランク軸でカム軸を回す時に、パルブが下る場合には逆にカム軸がクランク軸を回す絡好となり、歯車の裏面を打つようになります。このためクランク軸とカム軸の間のアイドルギヤを2分割し、スプリングで互いに反対方向に張らせてバックラッシュをなくしてこの打音を防止したのが図13に見られるゼロラッシュ・アイドルギヤであります。この機構は種々改良を加えられて今日のエンジンのゼロラッシュ・カムギヤとして使用されております。カムギヤは、他系統では同じ騒音防止のためにべ-クライト・カムギヤを採用した事もあり、AE58も初期にはこれを使用していました。

次に水平対向形式とローラーベアリングについて説明しましょう。


水平対向形式の採用

戦後法規の制限が大幅に改正されて気筒容積が1500ccになったとき、AE4の頭上弁式エンジンを基とし、装備上、振動上等最もすぐれているといわれる水平対向形式の2気筒41馬力エンジンを開発しました。これが以後当社エンジンの基本形となったAE5型であります。(図14参照)水平対向エンジンの最も大きな利点として、2気筒あるいは4気筒エンジンの場合、動力学的に完全にバランスがとれること、即ち一次(エンジン回転数の)、二次(上記の2倍の)慣性力のつり合いや、爆発間隔の点で他のいずれの形式よりすぐれています。また、エンジン全体の高さが低くできて、エンジンの床下装備が可能となるため、スペースを有効に利用する点が有利です。



ローラー・ぺアリング
当初のAE4型エンジンはローラー・ぺアリングが使用されているため、コンパクトで摩擦損失も少く、高性能の一要因となっていました。これは戦時中製作していた航空発動機アツタ20型が軸受に多列ローラー・ぺアリングを使用していたことを思いだすと技術的にも納得がいくことと思います。ただし、これはAE4~AE5の後述90ポアシリーズに使用された後、(図15参照)次のシリーズから暫らく平軸受けが採用されていましたが、現在のAE58シリーズのエンジンにはクランク軸に球軸受、コンロッド大端部にニードル(針軸受だがローラー・ぺアリングといってよいもの)ベアリングが使用されています。



以下次のようなシリーズ別に表と写真とを主として説明していきましょう。
・90ポアシリーズ(AE4、5系統)
・80ポアシリーズ(AE16、34系統)
・68ストロークシリーズ(AE17、27、57糸統)
・64ポアシリーズ(AE58、59系統)
・2サイクルエンジン(AE20、82)

以下、次号へ続く・・・



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